名(迷)所

馬下 大正浦隧道

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大正浦隧道南側

廃道となった大正浦隧道南側周辺

上海府の最北端、馬下。その北にそそり立つ岩山一帯は鳥越山と呼ばれ、古より交通の難所となっていた。

海にせり出した崖が通行人の行く手を阻み、垂直に近い岩場には梯子や綱を下げて助けとしていたというが、一歩足を踏みはずしたり、岩が崩れたりすれば大怪我か、最悪の場合は死につながった。

まさにこの岩場は上海府最大の難所であった。そうしたことから、馬下には行く手を阻まれた義経がやむなく馬を下りて山を越えたという伝説もある。

大正浦隧道馬下大橋より

馬下大橋より見た南側。岩に足場があったとは思えない…

岩場の穴

岩場に穴を発見 人工的に作られた痕跡はこれしか見つけられない

嘉永3年(1850)、この岩場に隧道を掘るための許可申請を出した者がいた。

早川の早川寺・洞水和尚と、新保の仏照寺・大哲和尚である。この隧道が完成すれば人々の喜びは計り知れない。二人は当時、この地を支配していた塩野町代官所の許可を得ると郡内の有志に寄進を募った。

その年にタガネを頼りに工事を初め、翌年には小さな素掘りの隧道が完成した。高さ2.5メートル、幅2メートル、長さ70メートルで、経費は300両を要した。

この隧道の完成で、人々がこの岩山を通行する際に伴う危険は軽減し、時間も短縮することができた。

大正浦隧道隧道の中

南側より隧道内をのぞく

その後、二人の和尚が作った隧道が拡張されたのが昭和41年の国道工事と思われる。

トンネル幅を小型の自動車がギリギリすれ違いできる程度に広げ、壁面には崩落防止のコンクリートが吹き付けられた。坑門前後には落石防止のためシェードが作られた。

この時に大正浦隧道と名付けられたのだろう。と、いうことはこの辺りを大正浦と呼んだのだろうか?馬下で聞いた「んだり浜」が恐らくここに僅かにある浜ではないかと推測してはいたが…。

この隧道は現在も廃道となって残っている。柵があるので入ることはできない。

隧道に徒歩で近づくと周囲にはいくつもの落石が無造作に転がっている。今でも石が降ってくるのではないかと、遥か頭上に迫り出した岩から威圧感を感じる。

シェードのコンクリートは劣化し、中の鉄筋が剥き出しとなっていて痛々しい…が、支えの円柱が何かのモニュメントのようにも見えて不思議な佇まいを感じる。

この隧道が廃止されたのは岩場を迂回する馬下大橋ができた平成元年だ。平成の世までこのような危険な道が日常的にあった。

ちなみにgoogleマップ上でもレビューが付いていて、廃ものマニアにはそれなりに人気がある。

大正浦隧道北側坑門

草に埋もれた隧道北側坑門 奥に見える柵は倒れている?

参考文献

山北町史|発行:(旧)山北町
村上市史|発行:村上市

以上の記事は上記資料をもとに書いたものだが、ネット上では以下の記述が出回っている。

嘉永三年(1850年)、新保の仏照寺十世住職宣方大哲和尚と、馬下の隣村である早川村の早川寺住職洞水和尚が、ここを通る旅人の難儀を救うため、ここに洞門を掘り道行く緒人の安全を図ろうと発願した。(中略)

翌年、大哲・洞水和尚はタガネ掘りで洞門の掘削を始め、またこれを見た村人も工夫として、あるいは米や金を寄進し、安政五年(1858年)に七年かかりでようやく洞門が完成した。延長十九間二分、幅二間、高さ九尺であったという。

この情報の出元が不明。どこかに信頼できる資料があるなら、中略の部分もとても気になるので是非とも教えて頂きたい。

ネット記事と山北町史や村上市史と大きく異なるのが延長と工期。

山北町史や村上市史では延長を70メートルとしている。ところが現場を見るとそれほどの長さが無い。

公的な資料が何の裏付けも無しに記述しているとも思えないが、実際に見た限りではネット上の記述にある十九間二分(約35メートル)が正しいように感じる。

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